AGA治療の方法としては飲み薬のフィナステリドや育毛剤のミノキシジルが一般によく用いられますし、それでも効果がなければ植毛という方法もありますが、最先端の医療技術を使えば臓器でさえ再生できるわけですから、薄くなった髪の毛が再生できないはずがないと考えるのは当然のことです。そうした髪再生医療のひとつとして、アメリカで開発された最新技術がケラステムですが、iPS細胞と同じような幹細胞の働きを利用することで、髪の再生能力を高める効果を狙っており、男性ホルモンが抜け毛の主な原因となるAGAだけでなく、女性の薄毛の治療も可能であることが大きな特徴です。
再生医療が認知されるに伴って、よく耳にするようになった幹細胞とは、人間の細胞の中でも自己複製の能力が高く、さまざまな組織に分化できる可能性を持った細胞のことで、具体的には血管になったり脂肪組織になったり毛髪のもとになったりします。幹細胞として有名なものにiPS細胞がありますが、iPS細胞は人間の体から採取した細胞に人工的に手を加え、未分化な状態に戻してから使用するもので、培養する時間と手間がかかり費用も高くなるのに対して、ケラステムでは自己脂肪組織内から、ケラステム社の開発した機器により幹細胞を抽出するため、一度に大量の細胞を培養なしに使用できるというメリットがあります。さて頭髪は毛乳頭という部分から生えてきますが、毛根の近くにはバルジ領域という部分があって、ここに存在する毛包幹細胞が分裂を繰り返すことで髪が成長するというメカニズムがあり、抜け毛や薄毛の人は毛包幹細胞の分裂が止まったままになっていると考えられます。ケラステムの作用機序は、まず頭皮に注入された自己脂肪組織由来の幹細胞が、毛包幹細胞の近くにある脂肪前駆細胞を刺激し、この細胞が髪の成長因子すなわちグロースファクターの分泌を促し、成長因子が毛包幹細胞の分裂を促すとともに、血管内皮細胞も活性化させて頭皮の血流を改善、発毛と同時に育毛を促進する効果も発揮します。海外で行われた臨床試験の結果、単独で薄毛治療法を行なった場合、毛髪密度の増加率はミノキシジルが16%、フィナステリドが14%であったのに対し、ケラステムは37%という数字が出ているほか、毛の数が5か月後には29%増加し、毛周期も成長期の細胞も33%から78%に増加するなど、顕著な効果が示されています。
処置に必要な時間は3~4時間程度と、植毛手術などに比べれば比較的短く、体への負担が少ない点もメリットのひとつと言えますが、まだ費用は高額になります。ケラステムの主作用・副作用とは、まず髪が再生し太く長く伸ばせる点が主作用であり、他のAGA治療法と比較してもかなりの効果を期待できますが、一方で予想できない弊害が生じる可能性もあり、たとえば腹部や臀部から脂肪を吸引する必用があるため、術後の痛みや腫れが1週間ほど続いたり、内出血が2週間ほど残ったりすることもあるため、サポーターで固定するなどの対応をしなければなりません。また注入した頭皮に大きな副作用が出たことはないとされていますが、脂肪細胞も一緒に注入するために、やはり痛みや腫れが出る可能性があり、1~2週間程度は違和感があるとも言われています。アメリカやイギリスの研究機関で有効性や安全性は確かめられていますが、現在のところ妊娠している人や授乳中の女性には施術を行なえないことになっており、あらゆる手術と同じように、失敗する危険性や体への負担がゼロというわけではないので、メリットやリスクについては医師と充分に相談したうえで、慎重に自己判断する必要があります。